飲食業界にとって2020年は試練の年となりました。
感染症の蔓延により営業自粛を余儀なくされ、飲食業界全体の売り上げは前年比84.9%まで落ち込みました。
そんな中で注目されている焼肉業界。
なぜ今焼肉業界が注目されているのか、近年の業界の動きから現状を紐解き、今後の展開を考えます。
焼肉業界の現状
2020年飲食業界の業種別売上前年比は以下の通りです。
売上前年比 | 店舗数前年比 | |
飲食業界全体 | 84.9% | 98.2% |
ファーストフード | 96.3% | 98.9% |
居酒屋 | 52.3% | 92.2% |
ディナーレストラン | 64.3% | 95.4% |
焼肉 | 89.1% | 100.7% |
ファーストフードはテイクアウト・デリバリー需要に支えられ下落幅は抑えられましたが、居酒屋やディナーレストランは感染症蔓延の影響を大きく受けましたました。
その一方、焼き肉業界は売上前年比は落としているものの、店舗数前年比は微増となりました。これは売上を落とした居酒屋大手が焼肉業界に参入したり、既存の焼肉チェーンが攻めの出店を行っている結果が出ています。
今こそ注目されている焼肉業界ですが、これまでの道のりは決して平坦ではありませんでした。
焼肉業界の歩み
近年の焼肉業界の歩みを見ていきます。
1991年 牛肉輸入自由化
1991年4月から牛肉輸入自由化が始まりました。
牛肉の輸入量が増え、値段の安い輸入牛が出回るようになりました。その結果、リーズナブルな焼肉チェーンが増加し、一気に若者層を取り込み焼肉業界は急成長することとなりました。
その一方、輸入牛との差別化のため国産牛のブランド化が進んだのもこの頃からです。
2003年 BSE問題
BSE問題、いわゆる狂牛病問題です。
事の発端はイギリスでBSEが確認されたことから始まります。
2003年にアメリカに広がり、日本は米国産牛肉の輸入停止に踏み切りました。吉野家が牛丼の提供を取りやめてニュースにもなりました。
焼肉業界への影響は深刻です。
牛肉を食べると狂牛病になるという嘘みたいな話が本当に広まり、これまでの急成長から一転、マイナス成長となり大手チェーンの廃業や赤字が相次ぎました。
2011年 集団食中毒事件
2011年、焼肉チェーンで集団食中毒事件が発生しました。
提供されたユッケが原因となり、多くの人が感染し亡くなられた方も出てしまいました。
もともと生食用肉に関しては衛生基準はありましたが、なし崩し的に生食用肉が販売され罰則も無いという状況でした。
その後生食用肉の規制から始まり、生食用牛レバー、生食用豚肉と規制は広がっていきました。
ユッケや生食牛レバーは人気メニューだったため業界への影響は大きく、生肉離れから代替品の開発へと模索していきます。
2016年~ インバウンド需要 高級焼肉需要
訪日外国人の数は年々増加し、日本は観光立国を目指しました。
焼肉業界も日本ならではのスタイルから多くの訪日外国人が訪れ、再び活気づきました。
また国産牛の海外進出により銘柄牛が見直され、高級焼肉の需要も増えていきました。
好調の焼肉業界、その理由は
2020年から感染症が蔓延します。
壊滅的な飲食業界の中で好調の焼肉業界、その理由を考えます。
感染症対策としての換気
これはニュースで多く報じられていることですが、感染症対策には換気が重要です。
そして焼肉店の換気は感染症対策に有効だといわれています。
外食がままならない今、安心安全のため焼肉店が選ばれています。
お一人様需要、郊外需要の拡大
以前からお一人様需要、郊外需要は拡大していましたが、感染症拡大とともに改めて見直されました。
お一人様需要はマイペースで食事がしたいという需要から、密を避けて安心して食事ができる需要へと拡大しました。
郊外需要は都心と違い、感染症対策のため家にいる時間が長くなった家族の需要を取り込むこととなりました。
参入障壁の低さ
大手外食チェーンだけでなく、個人店も焼肉業界へ参入しています。
その大きな理由は参入障壁の低さです。
通常飲食店では調理技術が必要になりますが、焼肉店ではお客様が最終調理をします。そのため特別な調理技術は必要なく、肉の仕入れルートを確保できれば参入できます。
五感に訴える食事
近年の食事風景は味気ないものになりました。人との接触を恐れ黙って食事をし、テイクアウトやデリバリーは温かみと彩に欠けています。食事を楽しむことができなくなっています。
その中で焼肉は五感をフルに使って食事ができます。
視覚に訴える食材と炎、食材をつかむ触感、焼ける音、焼ける匂い、出来立ての味わい、今だからこそ見直されている焼肉業界最大の強みです。
今後の展開
焼肉業界は一つのブームではなく業界として成り立っています。
しかし今後も業界への新規参入が続いていくと思われますので、いずれ過当競争になっていきます。
過当競争の先に待っているのは価格競争か差別化です。
焼肉業界はどちらを選ぶでしょう。
価格競争に陥れば体力勝負となり、多くの店は淘汰されます。
差別化は業界のすそ野を広げ、さらなる発展が見込めます。
私の意見としては新規参入は価格競争を行うと思います。それが企業として成長の最短距離ですし、トップに立ってしまえば利益は総取りです。
ただ個人店や小規模チェーンはこれに付き合う必要はありません。体力勝負に挑めば負けることは必然です。
それより今回の感染症で明らかになった焼肉業界の強みを生かし、店の顧客を見極めニーズを捉えた展開をしていくべきだと思います。
飲食業界全体が低迷している中で、焼肉業界は希望の光です。
こんな時だからこそ、焼肉で食事の楽しさを味わっていただきたいです。
(出典)
コメント